鉄の味と銅の味
鉄の味と銅の味
鉄の味と銅の味
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我が家はふるい。
窓は障子と杉板の雨戸であった。すきま風が遠慮なくはいってくるので、普請してアルミサッシに入れ替えた。
以前には、なんでも気楽にうちそとを行き来できたものが、風とともに動物も遠慮がちになった。たぬきの相撲も見れないし貂の綱渡りももう見ることがない。がまの歌も聴けない。家をりっぱにするのも考えものだ。
それではつまらないから、きょうは動物をよぶことにした。「遊びにおいでよ。」と言いにいく係をうちの猫にたのんだ。
この手の用事は、うちの猫はキライなのだけれど、浅草海苔大判1枚で交渉が成立した。
さつまいもを蒸かし、リンゴの皮を剥いて待っていたら、かれらは1列にならんで坂を上がってきた。うちの猫は1番うしろについている。先頭を歩いた事がない。
茶をすすり、いも、りんごを食いして話がはずんだ。
会話はこうだ。「あー、さつまいもがうまい。」「さつまいもがうまい。」「うん、うまい。」
話が新参ものの犬の話にうつった。
「あれは鉄をくったな。」「うん、くったな。」「鉄をうんとくらったな。」
ついすこし前まで道に雪があった。
村のよろず屋が、うちに車で灯油を運んできたのであるが、道は急で上がれない。で、上る前にチェーンをまくことにした。そこは新参ものの犬の、うちの目の前であった。
なぜだか今日は、犬の鎖が首輪からはなれていた。
礼儀と分際をわきまえていない犬のてんまつ。
よろず屋は、うちの灯油タンクに給油しながら「ギャン,ギャンとまとい付かれ、手じかにあった工具で鼻面にしこたま食らわせてやった」ことを教えてくれた。
うちにきた動物たちも農具で鉄の味をおぼえたり、味わいをふかくしたものがいる。
狸などは、味わいのちがいが、わかるそうである。
私は鉄もすきだが、いまはやっぱり銅のあじわいを考えなければと思った。
2018年6月1日金曜日