木のねっこ

 


 うちの軒先で動物達が茶会を楽しんだ。ただ茶を飲むきり、食うきりでお手前などない。足なんかぐなぐなで、座り方は何でも良いことになっている。

私たちは今日は客である。いつものように身辺の話だったが「待ちぼうけの歌ってのはおれたちの歌だろ。」「どこで見ていたんだいね、おれたちのことを。」とテンが言い、アナグマが言い、タヌキが「ほんとうだいね。」とこたえた。猟師というものは罠を仕掛ける事があるが、自分たちの「木のねっこ」は待ちぼうけに出ているようにただの木のねっこで、仕掛け無しでただ待つだけのうまい話なんだそうだ。本当は待たないで行き会えば最高なんだけれどむずかしいそうだ。


(1)

待ちぼうけ 待ちぼうけ

ある日せっせと 野良かせぎ

そこへ兎が 飛んで出て 

ころり ころげた 木のねっこ。


 

 うちの猫がまだ大人になるかならないかの時期だった。家から道を一折り下ったあたりから猫の呼ぶ声がする。行ってみると大兎が道に横たわっていて、鉄砲撃ちが記念撮影をするときにように凛々しくポーズをしたものです。

最初は事の次第を飲み込めなかったものの、同じようなことが何回かあってこれは「木のねっこ」だと悟ったものです。


 狐、タヌキ、アナグマ、貂はそれぞれに「木のねっこ」をもっているんだとか。

みんなは転び場とよんでいて、転び場が3つなら3転び、4つなら4転びといい、それぞれ秘密にしています。本当のことを言っているか判りませんが、ちなみに狐は7転びで、タヌキが6転び、アナグマと貂が5転び持っているそうです。私の知っているところでは、うちの猫は3転びは持っています。


 待ちぼうけの歌詞は野生動物研究家が書いたものと思っていましたが、調べると宋の国の話をもとに北原白秋が詩を書き、山田耕筰が作曲してものとありました。畑の切り株に蹴つまずいて、首の骨を折った兎を簡単に手に入れた事で、次もあるわいと思ってしまった男の顛末うんぬん。


動物たちは1番しか知らないし、充分だという。

一応5番までの歌詞を載せます。




(2)

待ちぼうけ 待ちぼうけ

しめたこれから 寝て待とか

待てば獲ものは 駆けて来る

兎ぶつかれ 木のねっこ


(3)

待ちぼうけ 待ちぼうけ

昨日鍬とり 畑仕事

今日は頬づえ 日向ぼこ

うまい伐り株 木のねっこ


(4)

待ちぼうけ 待ちぼうけ

今日は今日はで 待ちぼうけ

明日は明日はで 森のそと

兎待ち待ち 木のねっこ


(5)

待ちぼうけ 待ちぼうけ

もとは涼しい 黍畑

いまは荒野の 箒草

寒い北風 木のねっこ



小兎は転ばない。動かないのだから。

山道を歩いている時、注意深く草地を見ているとそこに小兎を発見するかもしれない。見つけさえすれば、捕まえて手のひらにそっと載せる事ができる。




 

2008年5月29日木曜日

 
 
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